本文へスキップ
HOME 挨拶 研究概要 お知らせ 研究業績 ゼブラフィッシュ 飼育施設 リンク
研究概要
研究の背景
 近年、分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬など新たな作用機序を持つ抗がん剤の上市に伴い、癌患者の生命予後の改善が期待されています。しかし実際の臨床データが蓄積されるにつれ、膵臓癌や悪性黒色腫などの予後不良な悪性腫瘍や、発見の遅れた転移性がんの治癒率は依然低いままであることが明らかになっています。たとえば、昨年発表された悪性黒色腫に対する臨床試験の結果では(Lee D, et al. BioDrugs. 2016)、ベムラフェニブ(分子標的薬)やイピリムマブ(免疫チェックポイント阻害薬)を用いたとしても、2年生存率にはほとんど改善が認められていません(図1)。さらに社会的な問題として、研究開発費がここ10年で急激に増加しており、新薬の高額化が著しいのです。例えば、種々のがんに使用できる「夢の新薬」として売り出された免疫チェックポイント阻害薬オプジーボの薬価は100mgで 73万円であり、これを国内の非小細胞性肺がん患者に使用した場合、その薬剤費が年間1兆7500億円になるという試算が発表されています(平成27年度財政制度等審議会)。

 つまり最近の新薬開発の現状は、抗がん剤開発技術は向上しましたがその分さらにコストが跳ね上がり、一方「死に至りそうな悪性度の高い癌」に対しての治療効果はほとんど改善されていない、と言っても過言ではありません。

 製薬企業では、タンパク質−タンパク質などの分子間相互作用、疾患モデル細胞など疾患発症過程の部分現象を切り出し、その現象への作用効果を調べること、つまり細胞や標的タンパク質を用いた化合物スクリーニングにより、新規治療薬候補を探索しています。この評価原理の方法では、選出された候補化合物の大部分がマウスなどの実験動物を用いた「in vivo」検証系では薬理効果が出ない、毒性が出るなど、予測不可能な現象が発生することで脱落してしまうという問題が表出してきています。このため、従来の研究方法で選出されたヒット化合物が真の創薬シーズになる確率が極めて低いこと(約10000分の1)から開発効率の低下を招き、結果的に製薬企業における新薬開発コストを引き上げ(Berg EL, et al. Drug Discov Today. 2014)、患者・社会福祉経済を圧迫する深刻な問題となっています(図2)。
ゼブラフィッシュ創薬
 この問題を解決する創薬技術の1つとして、欧米を中心に微小脊椎動物である疾患モデルゼブラフィッシュ (Zebrafish, Danio rerio) を評価系に利用するin vivoスクリーニング技術が活発化しています。ゼブラフィッシュは魚類ですが
1)全ゲノム配列ではヒトと80%の相同性があり遺伝子数もヒトとほぼ同じ
2)主要臓器・組織の発生・構造もヒトと良く似ている。
3)受精卵から分化して各臓器が形成される過程が透明な体を通して観察できるため、蛍光物質を結合させた生体内小分子の可視化が容易
4)遺伝子操作が容易かつ短時間ででき、突然変異系統も200ほど報告されているため、遺伝子機能解析に最適
5)コスト面でもマウス等のげっ歯類を利用した動物試験に比較すると1化合物あたり1000分の1以下になることが試算されている
など、モデル動物としての数多いアドバンテージからゼブラフィッシュ個体を評価動物として用いる方法 (ゼブラフィッシュスクリーニング)が、採算性が見込める現実的なスクリーニング技術として新薬開発プロセスへの適用が始まってます(NIH announcement, 2006)

 実際にグラクソ・スミスクライン社をはじめとする欧米系の製薬企業では、新薬候補化合物探索スクリーニング試験系にゼブラフィッシュを適用しており、循環器・腎泌尿器・中枢性疾患・発生毒性評価などの様々なヒト疾患モデル動物として活発に利用されています。悪性腫瘍領域においては、Leonard Zonが放射線療法後の血液幹細胞の増殖を促進する化合物をゼブラフィッシュスクリーニングを用いて発見し(North TE, et al. Nature. 2007)、ヒト臨床試験で臨床試験第2相試験をクリアしています(Hagedorn EJ, et al. Exp Cell Res. 2014) また、共同研究者のRichard Whiteは悪性黒色腫に有効な新規化合物DHODHをゼブラフィッシュスクリーニングで発見しています(White RM, et al. Nature. 2011)。白血病(T-ALL, AML, CML)に対するゼブラフィッシュスクリーニングも活発に行われており、私たちのグループも白血病癌幹細胞に有効な新規化合物を発見、そのメカニズムを明らかにしていました(表1)。