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研究概要(過去の研究概要はこちら
現在の創薬における問題点
 製薬会社は現在、新規医薬品の開発効率に大きな問題を抱えています。これまで最も有効であった創薬戦略では、まず治療標的分子(タンパク質など)を決定し、それに作用する化合物を大規模スクリーニングで探索、そしてげっ歯類動物を主とした疾患モデル動物用いた実験で評価し、最終的にヒト試験(臨床試験)に入っていきます。ところが、動物を用いた前臨床試験ではADMEの問題で多くの活性が認められた化合物が脱落します。ヒト臨床試験に入ってからは、例えば抗腫瘍薬領域では70%以上の化合物がフェーズ2で脱落し、さらに残った59%がフェーズ3で消えてしまいます1大変な研究労力と金額、そして動物の命が無駄になっているのです。

創薬の成功率の低さを示した図
“Omics”-Informed Drug and Biomarker Discovery: Opportunities, Challenges and Future Perspectivesより抜粋)

 この非常に低い創薬成功率を改善するため、創薬の初期段階であるスクリーニング試験から動物モデルを導入し(whole animal testing or screening)、試験化合物の疾患・組織選択性や毒性のみならず、その生体内利用率なども評価しようという試みが始まっています。このWhole animal testingの対象動物としては、マウスなどのげっ歯類動物ではそのコスト・動物愛護の点から負担が問題ですし、ハエや線虫などではヒトと共通する臓器が少ないという問題(たとえばハエにはヒトと類似した血管組織がないなど)から、小型脊椎動物ゼブラフィッシュが注目されています。
 
ヒト疾患モデル動物としてのゼブラフィッシュ
 ゼブラフィッシュ(学名 Danio rerio)はヒマラヤ地方原産の体長5 cmくらいの淡水熱帯魚です。生物学、特に発生学の分野で、脊椎動物のモデルとして1970年代より使用されていました。1990年代に化学物質や放射線による突然変異体を用いたスクリーニング研究が、2000年代に(ゲノムシーケンスプロジェクトの成果として)ゼブラフィッシュとヒト間で高度に保存されている多くの遺伝子・ゲノム構造が明らかになるにつれ、ヒト疾患関連遺伝子を標的とした遺伝子組換型疾患モデルの開発が進みました。
 
 ゼブラフィッシュは魚類ですが、同時に脊椎動物でもあり、脳・眼球・鼻・骨・血管・肝臓・胆嚢・腸・卵巣・精巣などヒトと共通する臓器をほぼ揃えています。これらの臓器は確かにサイズの違いはあるものの、顕微鏡下で観察される組織構造は驚くほど似ており2、親魚の体重が約0.5 gとするとマウスの50分の1近いスモールスケールのモデル動物としての立ち位置です。また親魚は1ペアで1週間に1回、200−300個の受精卵を産生します。発生速度も速く、受精後わずか3日間で完全に孵化し泳ぎだしますが、その時のサイズは3mm程度であり、50 μLの飼育水で飼育管理できます。つまり一般的な96ウェルプレート内での飼育が可能であり、稚魚を用いた場合は細胞同様のプレートアッセイが実現するのです。親魚ですら1.5L(ペットボトル1本分)の水槽で20匹の親魚の飼育ができ、かつそれらが産出する受精卵の総数、そしてゲノム・組織学的類似性(外挿性)を総合すると、まさに動物を用いたスクリーニングのために存在する実験動物と言っても過言ではありません。また、意外と重要な現実的なポイントですが、その飼育コストはマウスの1/100〜1/1000であり3、スモールスケールのラボの研究者でも繁殖飼育・動物試験に使用できるのも大きな魅力となっています。

 これらの実験動物としての優れたアドバンテージに気づいた研究者ががんばり、2000年以降、様々なヒト疾患モデルが開発されています。1998年にBrownileらが発表した先天性鉄芽球性貧血モデル4を皮切りに、中枢系・造血系・免疫系・循環器・肝臓・腎臓疾患など数多く報告されています。
当スクリーニングセンターが所有するゼブラフィッシュ技術
 三重大学次世代創薬・ゼブラフィッシュスクリーニングセンターは、三重大学が支援する卓越型リサーチセンター事業の1つです。肥満・悪性腫瘍の2大疾患モデルゼブラフィッシュを柱に、様々な評価技術を提供しています。

1. 肥満モデルゼブラフィッシュ
2009年に世界で初めて食餌性肥満ゼブラフィッシュ5を発表して以来、一貫して本モデルを用いた研究開発を行なってきました。抗肥満成分の発見、肥満関連疾患発症メカニズムの解明に加え、数多くのゼブラフィッシュ試験に必要な実験技術を開発してきました。また昨年度には世界で初めて2型糖尿病(インスリン抵抗性)ゼブラフィッシュの構築に成功しました6


2. 悪性腫瘍モデルゼブラフィッシュ
2014年に人間由来がん細胞を移植したゼブラフィッシュを用いたスクリーニング技術7を発表して以来、抗癌幹細胞性蛍光色素8や腫瘍血管新生制御遺伝子9の発見、ドラッグデリバリー技術開発10への応用など、様々な研究開発を行なってきました。



また血管や免疫細胞(マクロファージや好中球)、膵臓、骨芽細胞などの各臓器における発生毒性試験も行なっています。